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「P・E・T1」ヒチョル×ドンへ(本館から移動)

 ←ごあいさつ →「P・E・T2」ヒチョル×ドンへ(本館から移動)

タクシーはあんまり使いたくなかったんだけど……

今日も無事、送り届けてもらってありがとうございます。

と心中で呟いた。


エントランスの中は眩しくて、数分前まで薄暗い夜の世界にいたせいで目がチカチカする。この時期に着てきてしまったダウンジャケットに加えて、体内に熱を感じる。
ふわふわと足取りがおぼつかない。

そんなに飲んだっけ?
うん、飲んだな。

鍵を開けると、センサーで明かりがつく。けれどその光はまだ目に優しかった。
ダイニングの明かりが漏れている。

まだ起きてんのか。

ジャケットを脱いで、デニム生地の長袖シャツの襟元を開ける。袖のボタンも開きながら、ヒチョルはその明かりに導かれるようにダイニングのドアを開いた。

でも実際は、とにかく水を口にしたかった。


「あ、お帰り」


テレビを見ていたTシャツとパジャマパンツを履いた弟がいた。同じアイドルグループの年下のメンバーだった。
ヒチョルを気にして、テレビを消した。
その番組が、あまりこの兄の好みじゃないことを知っていたからだ。

部屋に音がなくなった。


「おー」


横目で一瞥してガラスコップを手に取る。精悍な猫のような目だった。少し厚めの目蓋でも、その大きな鋭く光る球体は隠せない。テレビの前から立ち上がって、ソファーにうつぶせになって、ドンへは兄のようなこのメンバーの姿を見た。もう慣れたものではあるけれど、いつもその目を見ると、細長く呑気な目をしている自分とは違う動物を見ている気分になる。

ヒチョルは二杯目の水を飲んだ。

きめ細かい肌にその水分は必要不可欠なのかもしれない。幅のある官能的な唇も、薄い唇の自分とは違う。ドンへはぼんやりと眺めていた。


「ヒョン。クラブ行ったの?」

「そう」

「可愛い子いっぱいいた?」

「いない」

ドンへが小さく噴き出したのを、また光る球体で見る。ヒチョルは自分も鼻で笑って、飲みかけの水を口に含んだ。

「この世の女の大半は可愛くない。可愛いのはアスカちゃんだ」

ヒチョルが好きなアニメのキャラクターだった。
いつもアニメ好きな兄を見て、とても整ったその外見からは想像できない何かを感じる。けれど、端正だからこそ、実世界の醜さを嫌っているのかもしれないともドンへは思った。

口を半開きにして、自分を楽しそうに眺める弟を見てから、ヒチョルはガラスコップをシンクに置いた。

「何でこんな時間まで起きてんだよ?」

言いながら、ああテレビか、と察した。

「部屋で見ればいいだろ」

また後ろの弟の方を見ると、微笑を浮かべてまだじっと自分を眺めていた。穏やかな目の中で丸くて黒い瞳が主張している。ヒチョルは鼻で笑う。忠実な犬みたいだな、と思った。

「今日は俺とヒョンしかいないんだよ」

ああ、そうだっけ?ヒチョルは忘れていた。

「なんか誰もいないのに部屋で見るのも微妙だったから」

「俺がいたら見れないだろ」

自分が笑っているのを、また興味深く小首を傾げて見ている。
シャワーを浴びたばかりなんだろう、柔らかい黒髪が、温厚な弟の目に少しかかっている。

「つけろよ」

顎でテレビを指した。

「いいよ」

ドンへが微笑んだまま首を横に振った。ヒチョルが苦笑する。

「じゃあ、一緒に見ようぜ」

大分自分は酔っているな、と思った。でも忠実な犬の様な弟と少し時間を持ってもいいな、と思った。

目を丸くした弟をぎらりとした目で嘲笑いながら、ヒチョルは腕で抱えていたジャケットを脇に置いて、テレビの前に胡坐をかいて座った。

「え、ほんとに言ってんの?あれだよ?」

「いいからつけろって」

ドンへは少し自分の手に持っていたリモコンを眺めて、電源ボタンを押した。
でも既に番組は終わっていた。

「これ終わってんな」

何も流れていない画面を見て、ヒチョルは可笑しそうに笑った。

「ごめん、ヒョン」

「お前が謝るのかよ」

ヒチョルはますます笑った。兄は大分酔ってるなと思いながら、ドンへはうつぶせのままそれを見ていた。

「クラブの話してよ、ヒョン」

「だから可愛い女なんていないっつってんだろ」

ヒチョルはまだ笑っている。

「ヒョン、ロリコンだから……」

「うるさいよ」

笑いながら、何となくどこかむなしくもなった。
今は特定の相手がいない。というのも自分のこれが大きく影響している、とヒチョルは思った。
本当に、可愛いというものに対しての基準が高い、もしくはその領域は自分特有のものだという自覚があった。
出会いを期待しないわけではない。自分にも性欲もある。女友達だって多い方だと思う。
どうしてこうなったのか、それはヒチョルは知らないドンへの想像通り、自分の外見をとても評価していたからかもしれない。
昔は女のように美しいと言われて、嫌だと言いながらそれにも優越感があった。
仲の良い後輩と一緒に遊んでいて、可哀想な後輩は、それを目撃した彼女に、
自分を女と間違われて別れ話を出されたことだってある。

そういえばあいつ今、日本だっけ?
新作イベントのフィギュア言ったら買って来てくれるかな。
ああ、まあいいや。

兎に角、それも自分の中では、武勇伝になっているようなふしがあった。


自分の可愛いってなんだ、

と、ヒチョルは笑いながらも思う。


例えば、アニメのキャラクターのような美少女と、本当に付き合えるのかと自分に問えば、もう自分の年齢はそこから脱してしまっている気がする。
自分に恋人を作れないくらい、求めているとも思えない。それに外見だけなら、自分はそんな子と付き合うことだって出来る。過去には、ある、でも、別れてしまった。むしろそんな見た目ではない子との方が長続きしたような気がする。けれどそれも偶然なだけで、そんな彼女達とも、別れてしまった。

今はきっと、自分に合う中身を兼ねそろえた『可愛さ』を、俺は探している。

いつの間にか笑い終えて、溜息をついた。


「ヒョン。体中、赤いよ」


色の白いヒチョルの体は、変化が分かりやすかった。

視線を床に落としながら、飲み過ぎたな、と思った。

体に熱が籠っているのが分かる。

酒で、動物的な本能も刺激されている。

なのに『アスカちゃん』は、今日もこの世界には見つからない。

自然界には存在しないのかもしれない。

あれは人の手によって、人工的に造られた、

動物にもなれない、

動く物だから。

形さえない。

自分は一生、触れることも出来ない。


「ヒョン。気持ち悪いんじゃないの?」


何となく、酒で浮いた気分は消沈して、でも隣で聞こえる穏やかな声にヒチョルは、微笑んだ。


「かもな。ちょっと、水持ってこい」


自分の言いつけ通りに、立ち上がって、弟が水を持ってきた。

ガラスコップに入った水を受け取りながら、見上げた。

自分を小首を傾げて見下ろす、温厚な澄んだ瞳が見下ろしている。

水に口付けることもなく、ヒチョルは、見上げた。



これは、しつけも良く行き届いた、

毛並みの良さそうな、


動物だな、と思った。


ドンへは楽しそうな顔で兄を眺めている。


ヒチョルは口の端を片方上げた。

本能が、掻きたてられた気がした。


「ちょっと座れよ」


自分より背の高い、体格の良い兄に腕を引っ張られて、

ドンへは、瞬かせながら、その通りに座る。

近くで見ると、その目は一層光っている。

直毛の茶色の髪も相まって、より猫の様に見えた。自分の肩を掴んで、近づいて来る。

「何?どしたの?」

口元を弛ませて、ドンへは言った。

「してみていい?」

面白そうに目を光らせながら、近づいて来て言う。

「何を?」

ドンへはまた小首を傾げた。ヒチョルは目をぎらつかせて、口角を上げる。

んーー……と、冗談ぽく考えるような声を出してから、同じ顔で言った。


「……ペッティング?」


「は?」


兄の言葉に、声を出して開いた口を、塞がれた。
突然噛まれるようにキスをされて、ドンへは目を丸くする。

ヒチョルは気にせずに、開いた口に舌を入れた。

ファンサービスで、メンバー相手にするキスには慣れたものだった。
ここまで、濃厚なものはしたことなかったけれど、とりあえず、訳も分からずされるがままになっている、外見も整った弟にするのは楽勝だった。

やっと我に返った弟は抵抗する。
でもヒチョルはその顔を捕まえて離さなかった。
体重をかけて押し倒しながら何度も舌を絡ませる。
苦しそうに息をするドンへに口づけていく。


しかし、予想外に、

ヒチョルは、あまり興奮はできなかった。


顔を離した。肩で息をするドンへは涙目で自分を見上げている。けれど、この弟もその潤んだ丸い瞳は、興奮のせいではないことが分かる。

「何、すんだよっ」

抗議の声を上げて睨まれる。でもそれは気にしなかった。
ヒチョルは自分の下で見上げて来る、何か、どうにかなりそうな動物を見ながら考えた。

んーー……とまた声を出した。


「……ちょっとさあ、お前から興奮してみてくんない?」

「はあ?何言ってんだよ」

ドンへはこの兄の心情が全く理解できなかった。本当にこれは自分と同じ動物ではないのかもしれないと思った。

「そんなの無理だよっ」

「頑張れ」

そう言って、ヒチョルはまた口づける。もうあまりにキスをされ過ぎて、ドンへはこの状況を体に覚えさせられてしまったように受け入れている。でも興奮とは程遠かった。

「分かった」

ヒチョルはまた顔を離した。ドンへは目を瞬かせて見上げている。

「俺が頑張る」

ドンへのTシャツに手をかけた。

「ちょ、ちょっと!ヒョン!」

反抗もむなしくTシャツがまくりあげられる。ヒチョルは少し躊躇いはあったものの、経験上、自分もされて良かった、胸を舐め上げる。

「ちょっと!」

抗議も気にせず、平たく、とてもじゃないけれど通常の精神では興奮もできないそれの、中心にむしゃぶりつく。「嫌だってっ」と声を上げながら抵抗されてもやめない。

声が、段々と静かになって、ヒチョルは上目遣いに顔を確認した。
澄んた瞳が、熱っぽく潤んで、自分の動向をじっと見つめていた。
ヒチョルは片側だけ口の端を上げた。舌にあたる場所は硬度を変えてきている。


じゃあ、もう少し頑張るか、とヒチョルは思った。








つづく







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